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ニュースの背景:自衛隊も民間機にレーダー照射をしていた―田母神 発言の正誤を解説する

〔解説〕木原稔防衛相は、訪問先のシンガポールで韓国国防相と会談。2018年の韓国海軍艦による海上自衛隊機への火器管制レーダー照射問題を巡り再発防止策に合意したと報じられている(「レーダー照射問題、再発防止合意 日韓防衛相が会談」)。

 この事件が発生した際に会員向けに配信した記事を、この機会に改めて掲載する。

 なお筆者への問い合わせは、ここをクリック。


向井 孝夫 本会研究委員(元1等空尉)

ニュースの背景:自衛隊も民間機にレーダー照射をしていた―田母神 発言の正誤を解説する


 いわゆるレーダー照射問題を巡る日韓の話し合いは暗礁に乗り上げている。

 この間、田母神 俊雄 元航空幕僚長が、レーダー照射を「全く危険ではない」(https://twitter.com/toshio_tamogami)とツイッターで発言したことが物議を醸している(編集部注:現在この発信を見付けることはできないので、「レーダー照射「大騒ぎするな」 元空自トップSNSの波紋」を参照のこと)。中には田母神 氏は宗旨替えして韓国側の味方になったのかとの批判もかなりあったらい。

 田母神 氏の発言は誤解を招きかねないが、一面において正しい。

 少なくとも航空自衛隊の高射部隊が、民間機や米軍機に火器管制レーダー照射を行っていたことを筆者は知見している。

 筆者は、空自高射部隊に所属していたので、日常の訓練や機器の整備などのため、火器管制用の追随レーダーで飛行中の航空機にレーダービームを照射していたことは知っている。日常の訓練のために飛行機を飛ばすほど、空自には飛行機はないから、定期航路を飛行する民間機も標的に使用して訓練をしていた。この点は田母神 氏が言う通りである。

 各種の部隊が参加する上級レベル主催の訓練や演習であれば、そのための飛行機を飛ばすこともできる。しかし、飛行機を保有していない高射部隊が独自の訓練を行う場合には、飛行部隊の協力を必要とするが、飛行部隊も独自に訓練や実任務があるから、そうそう応じてはもらえない。高射部隊にはシミュレータもあったが数が限られ、信じられないだろうが、その都度片道1日かけ海を渡って訓練に行ったこともある。

 そのようなわけで定期航路を飛行する民間機が格好の標的となるのである。

 また火器管制レーダーというのは照準のために使用するレーダーであるから精度も高いものが要求される。その調整も、実際に飛行中の飛行機を目標として利用する。レーダーの向いている方向とか複数のレーダー同士の位置は、長い間に、あるいは高射部隊が移動した場合などにズレてしまうので、一つの目標を基準として座標を合わせておかないと機能を発揮できなからである。それをしないと、いざ有事に機能発揮ができないどころか、友軍相撃の危険性すら生じるのである。

 更には、実際に射撃計算機を作動させ、模擬で命中精度を調べる試験もやっていた。空間の座標上の一点を動かし目標に見立てて試験する場合が多かったが、それでは計算機の機能の確認しかできないので、システム全体の整備のためには実際に飛行している飛行機で行う必要があるのである。

 このレーダー照射は民間機だけでなく、米軍機に対しても行われていたようだ。

 米軍機はレーダー警報機があるため、照射の事実があれば気付くことは間違いない。

 どうやら米軍からは苦情が来たようで、かなり昔の話であるが、米軍機への照射を中止する指示が上級司令部からその都度出されていたような記憶がある。

 一方、民間機は警報機などないから照射されていることは分からないので、高射部隊に苦情が来たことはない。

 ただ、基地防空部隊を編成した当時、高射部隊から移籍した隊員が、軍民共用空港での訓練時に、高射部隊に所属していたノリで、対空機関砲や携帯式ミサイルの追随訓練を民間機を使って行っていたところ、砲身が民間機に向いているのを気付かれ、航空会社から空港の管制を通じて苦情があったという話を聞いたことはある。

 もちろん機関砲に弾薬は装填していなし、遊底やアーミングコネクタ(発火電流の配線が内部にあり、外すと回路が構成されず、雷管に電流が流れない)は外している。携帯ミサイルは、訓練装置とダミーであった。従って危険は全くない。

 そもそも火器管制用のビームを航空機に照射したとしても、交戦をシステムに指示しなければ要撃コンピュータのプログラムが進行しないので、発射準備指令に至らない。あくまでも特定した航跡に交戦指示を与えなければ戦闘に進行しないのである。

 また本来、我が国の領空や、国際機関から航空管制を行うことを委任されている周辺空域については、日本政府が航行の安全を保証しているから、面子にかけて日本政府が飛行を許可している航空機に対して危険を及ぼすようなことは決してしない。危険を生じさせれば世界中からの信頼を失うからだ。

 以上が、田母神 氏の言うところの「全く危険ではない」ということなのである。

 逆に言えば、公海やその上空にいる他国の艦船、航空機が、以上の安全措置を取っているかは互いに知りようがない。だからこそ無用な衝突や緊張を避けるために、不文の慣習や拘束力のない紳士協定が文明国の軍隊間には存在し、仮に敵対国間であっても各国の軍人は尊重するのである。それをあえて破ることは、軍人コミュニティからすれば野蛮人の行いである。だから今回それを行った韓国軍艦によるレーダー照射は、危険と言わざるを得ないのだ。

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